ドラゴンクエスト
 [ #09 三種類の視線+1 ]


瀬上 : なるほど。
 見つめられてる、というのは、しかし他のゲームでもかなり盛んですよね。

米島 : うーん。まあ、それは確かにそう。だけれども、それをやってないゲームも沢山あって、ドラクエはそこのところ、ちゃんとやりだしてるな、というのはあるよ。やっぱり。

瀬上 : そうですかねえ、僕はドラクエのそういった側面というのは、別に他のゲームからそこまで抜きん出たものだとも思わないんですよね。

米島 : ほう。例えば?

瀬上 : まぁ、話をまたはじめの方に戻しますけれどもね、レスポンス型と評価型、という分類も確かに一つの軸としては有効だと思うんですけれど、ゲーム内からプレイヤーに対して向けられる視線というのは三類型ぐらいにできるんじゃないか、というようなことをこの前おもったんですよね。
 その一つはさっき話しに出たシーマンみたいなプレイヤーとゲーム内のものとの直接対話という方式ですよね、これはそのままゲームの中身が現実の世界にいるプレイヤーに語りかけてくるスタイルですよね。
 で、二つ目はシーマンとは違って「主人公」というシステムがある中で行われる対話があるんじゃないかな、と。つまりクロノトリガーもドラクエVIIもここに入るんですけれども、プレイヤーは「主人公」という形でゲームの中に迷い込んでいる状態の中でゲームの中で多様に蠢く他者と対話をしていくスタイル。これが二つ目としてあるのではないかな、と。
 で、三つ目なんですけれども、これは例えばベイグラントストーリーの敵のセリフで主人公アシュレイに対して「どうしてそうも冷静でいられるのだ」「あらゆる局面に完全に冷静」「まるで、魂と肉体が分離しているかのように」「アシュレイ、お前の魂はここにはない」「おまえの魂はどこにある?」というような非常に印象的なセリフがありましたけれど、このセリフっていうのは、確かにゲーム内で繰り出されるセリフなんですけれども、確実にモニターの外から主人公を操作しているプレイヤーに対してつきつけられているものなわけですよね。この場合っていうのはつまりゲームの中の世界がこっちの世界のプレイヤーと直接に対話するわけではなく、あくまでゲームの世界なんだけれども、こっちの世界とゲームの世界がダブって存在していることをゲームの中の世界から明らかに見つめられているような感じを持っているのではないかな、と。

米島 : はぁぁぁ、なるほどね。その分類はなかなかに面白い、というか、オレの分類よりもすごいかもねぇ。すごいすごい。
 ただ、ちょっと直感的にはその説明は今ひとつわからなかったんだけれども、まずさ、オレの言ったレスポンス型と、評価型の分類というのはその分類だとどこに入るわけ?

瀬上 : うーん、そうですねぇ。
 ……この場合、2番目かな?うーん、いや、一番目みたいな直接対話でもいいわけだから、一番も入るかなぁ……その、うーん、…この分類には入っていない、というか、分類の仕方の基本的な意識が違うんですよね、米島さんの分類とは。
 米島さんの分類というのは、なんというか、どちらかというとプログラム上の問題じゃないですか?

米島 : ああ、はい、まぁ確かにプログラム上の分類だよね。オレのは。じゃ、君の分類と言うものはどういった線上で考えられた分類ということになるの?

瀬上 : うーん。プログラムじゃなくててですねぇ……僕の考えてたことというのはつまり、プレイヤーと主人公の関係とかってことから派生して、プレイヤーとゲーム内世界の他者がどのような関係で対話をするか、みたいな感じですかねえ。

米島 : ああ、なんとなくわかるけど、ちょっとわかりにくいなあ。あのー……そうだなぁ、そのさぁ、分類ってさパラレルワールドっつーか、そら、ほら、現実世界とゲーム内の人口世界の関係性みたいな、こっちの世界とあっちの世界がどういった形で関係するか、みたいなものではなくて?

瀬上 : …そう、かもしれませんね。うん、その言い方が一番しっくりくるような感じがしますね、確かに。

米島 : あのー、それとさ、さっきの説明だと直感的にはわかりにくかったんだけれども、サクラ大戦とかはどこに入るわけ?

瀬上 : サクラ大戦の場合は、まぁ、2つ目の、プレイヤーが主人公という形をとってゲームの中の世界に入っていて、そこで主人公対キャラクターの会話があるぞ、という形式ですよね。

米島 : じゃあ、えーと、ドラクエの「話す」システムも2番目だったよね?

瀬上 : ええ。

米島 : あのー、オウガバトルはどう?伝説のオウガバトル。あれだと、ほら、対話っつーか、その、ゲーム内の民衆に行動を見つめられて悪いことはできないぞ、みたいな

瀬上 : あれの場合も、まぁ2番目ですよね。あくまで見つめられているのは主人公なわけですから。

米島 : うーん、そうなのか。ほとんど、2番目かぁ。あとは、そうだなぁ、ガンパレードマーチなんかも2番目なの?

瀬上 : あの作品の場合は…微妙ですねぇ。基本的には2番目の形で主人公とゲーム内キャラクターの対話という形ですけど、「ゲーム内世界にハッキングする」みたいな部分があるじゃないですか、

米島 : ああ、はい、あの岩田の「あなたも異世界からの介入者ですか」というあれね。複数の人間がゲーム内の世界へハッキングをしかけてる、みたいな状況が仮想的に提示されてるような状況ね、

瀬上 : はい。それなんですけれど、あそこの部分とかはモロに3番目みたいな形でパラレルワールドの状況そのものを指し示されるみたいな形の見つめられかたですよね。

米島 : 「それが世界の選択である」みたいな、すごい意識的な言葉も出てくるしね。しかもオープニングに。あれは、いい言葉だよね。

瀬上 : いい言葉、…か、どうかはともかく、まあ確かに刺激的な言葉だ、とは思いますよね。あと、その3番目みたいな形式に入るものとしては、ベイグラントとかガンパレードマーチのやり方はすごい成功してると思うんですけれど、ちょっと不器用になったものとして出てくるのが、MOONの「扉を開け」とか、MOTHERのプレイヤーの名前の入力とか、AZELの「絶対の客人」とかですよね。あれはなんか、今ひとつな感じでしたけど。

米島 : なるほどね。で、あと、じゃあ一番に入るのは、アレだ。トロとか、ピカチュウ元気でちゅうとか、頑張れ森川君2号とか、ああいうのだよね?

瀬上 : まあ、そうですよね。あそこらへんとあとは、少しTVゲームという形を脱してきますけれども、たまごっちとか、AIBOみたいなものが、そのまぁ先っちょというか、典型的な形になってきますよね。AIBOなんかは、直接にこっちの世界の存在としてあるわけですよね。

米島 : なるほど。AIBOはわかりやすいね。
 あとさぁ、それだとPSOとかディアブロみたいなネットワークゲームとかはどうなるわけ?

瀬上 : ああー、ネットワークゲームはちょっと考えてなかったですねぇ。僕なんかはそもそもネットワークゲームはゲームじゃなくて、現実の世界に存在する他人と本当に接触する形式での単なる現実の特殊空間の様式みたいなもんだと思ってるもんで、あんまりアレがゲームだという意識自体が希薄なんですよねぇ。

米島 : そうなんだ。確かにゲームなのか、ゲームじゃないのか、と聞かれたら今までのTVゲームが持ってた基本構造とはかなり違うもんだけれども、アレは、一番…じゃないの?

瀬上 : うーん。一人プレイのところはまず、2番目ですよねぇ。で、まぁ、ネットワークでのプレイの場合は、うーん。一番目の場合に、プレイヤーと対話するものっていうのはやっぱりAIのプログラムと対話をするわけじゃないですか、

米島 : そうだねぇ。ネットゲーはAIの人工知能じゃなくて、人工が抜けて単に実際の人間の知能そのものものだもんね。

瀬上 : ですよねぇ。そう考えると、1番目というよりも、新たにまあ4番目の項目でも作るかというところですかね。

米島 : ほい。
 で、あとこれで最後にするけど、ワンダープロジェクトとかはどうよ?

瀬上 : あぁー。あれはビミョーーなところですねぇ。
 その、あの、主人公というシステムを排除している点では1番目ですけれども、あのアンドロイドが、主人公の役割を担ってしまうような中途半端なケースが沢山あるあたりでは2番目の形をとってきますよねぇ。なんか、あの作品はそこらへん中途半端だったんですよねぇ。

米島 : ふーん。まぁ、その中途半端さがよかったか悪かったかはわからんけれども、 

瀬上 : まぁ、あまりよくなかったんじゃないかと思いますけどね。個人的には。

米島 : はい、まぁ、その話はいったんやめにして。じゃあさ、一度整理するけれど、1番目から3番目というのは、つまり人工知能とか、作られたテキストとの対話なんだよね、で、ネットゲームは、作られたもではなくて人間そのものが対話の相手だと。

瀬上 : はい。

米島 : で、一番目の分類というのは、人工知能が現実世界の方にやってきて、世界は現実世界が一つあるだけだぞ、と。

瀬上 : そう、ですね。まぁ。

米島 : で、2番目の分類というのは、人工知能がゲームの内部の閉じた世界の中にあって、プレイヤーはゲーム内世界のほうに迷い込んでいく形で、世界はゲーム内世界が一つあるだけだぞ、と。

瀬上 : まぁ、ほんとは2つですけどね。まぁ、ゲーム内世界が一つあるだけ、というか、ほんとはこっちのプレイヤーのいる世界とゲーム内の人工世界の二つがあるけれども、ゲーム内の人工世界は、一つの閉じた体系をなしてる、ということですよね。

米島 : なるほど。まぁ、それで、そうだね。と、思うので、3番目の分類なんだけれども、この場合はゲーム内の人工世界がある程度閉じた形の一つの世界として存在してるんだけれども、こっちの現実世界の存在というようなものをパラレルワールドとして見つめてくるような形で、「魔界ならざる現実界とのとの扉が開こうとしている」みたいな、ことだよね。

瀬上 : うーん、まぁだいたいそういう説明でもいいとおもうんですけれども、扉が開こうとしている、というか、二つのパラレルワールドが存在していて、その二つのワールドが互いに閉じていないから、世界が二つあることが意識されるような形、といったらちょっと危ないと思われるかもしれませんけれど、そんな感じですよね。

米島 : はぁはぁ。
 で、まぁ、それじゃあ、だいたい整理はこんな感じでよいかね?

瀬上 : そうですね。とりあえずは。
 
[ BACK<< ]  [ >>NEXT : 最後に ]

2001-7-7
2002-1-8
2002-1-21

(C)Akito Inoue