ドラゴンクエスト
 [ #08 見つめ返してくるもの ]


米島 : で、じゃ、あとはなんだろ、まだ「おぼえる」システムとか、色々あるけれど、とりあえず、以上で「世界を見つめる」ということについての手法の説明を終わりということで。

瀬上 : 「世界を見つめる」?

米島 : うん。今まで言ったことは「重層化」も「生活の場」も全部、プレイヤーが世界をいかにして見つめるか、という手法についての説明だったのね。

瀬上 : はぁ、ということはまだ、ぜんぜん一部しか語っていないわけですか?

米島 : 当然。申し訳ないことに、まだ、ぜんぜん一部。全部語ろうと思ったらもしかしたら、本の一冊ぐらいでるかもしれない勢いだから。

瀬上 : え!?全部語る気ですか?

米島 : いやいや、まさか。とりあえずは、まとまりがいいように、次はプレイヤーが世界からいかに見つめ返されるか、ということについて語るだけで終わらせるから。

瀬上 : ……そうですか。じゃあ、もう少し早めにお願いします。

米島 : はい、じゃあ、世界からの見つめ返し、なんだけれども、これは6までは堀井さんがどこまで意識的にやっているのか少しよくわからなかったんだけれども、要は『シーマン』の話ね。

瀬上 : ああ、はい。シーマンは確かになんか、プレイヤーの方を見つめ返してきてなんかぐちぐち言いますね。

米島 : そうそう。あれ、あれ。あれはもう、ゲームというメディアでしかできないことっすよ。あなた。

瀬上 : そうですね。小説やマンガではあれはできませんね。

米島 : で、あれがね、我々の住んでいる現実の世界と、ゲームの中の世界とを地続きにさせるための非常に有効な手法なのよ。

瀬上 : 確かに、そうかもしれませんね。ドラクエでいえば7から導入された「はなす」システムですよね。

米島 : それはそうなんだけど、ちょっと、概論的な話からはじめるけど。
 それでね、まず、まず注意して欲しいのは、「見つめ返す」というのは、曖昧な形で2つの形に分離してるのね。

瀬上 : ほう。

米島 : まず、プレイヤーに対して(はい/いいえ)とかというプレイヤーへの行動要請があるでしょ。まず、これがゲームの中の世界からプレイヤーが何かを求められている、見つめられている、ということの最初の一歩だよね。で、それに対して、はい、なり、いいえ、なりで、答えて、そこでゲームの側がどう反応するか、ということが2つに分かれいて、
 なにかというと、片方は評価システム、という形式ね。ギャルゲーとかでの好感度アップとかがこれで、ようするにプレイヤーの行動を好感度がアップするかダウンするかということで一元的に評価する、という形をとっているわけ。まあ、多元的に評価する場合もあるんだけれども、要は評価システムね。
 それに対して、もう一つは単純なレスポンスのシステムね。これは別に特に一元的な評価の方式をとっていなくって、単にプレイヤーの行動に対して、何らかのレスポンスをしてくる、という形での方式ね。これは別に評価とは結びつかずに、シーマンが悪態をついてくるだけで、プレイヤーが「この、クソ人面魚め!」とかってなるだけで、ゲーム内の数値が変動するとかということではなくて、レスポンスに対するプレイヤーの反応というものを期待しているというだけね。まあ、もしくは、評価システム以外の全てのゲーム側からの反応、と言ってもいいのかなぁ。

瀬上 : うーん。それについては僕の方からもいろいろと言いたいことはあるんですけれど。
 とりあえず、まず一つ聞いておきたいのは、例えば僕なんかはサクラ大戦とか、好感度アップとかダウンとか考えずに、単純にどういう答えが返ってくるかな、というようなことを楽しみながらやってたんですけれど、それも原則的には評価システム式に「見つめ返している」わけですか?

米島 : そうそう。さっき「曖昧に」といったのはそこで、実際には評価式のシステムであってもレスポンス型のシステムと同様に楽しむことというのは、プレイヤー次第ではまったく可能なんだよね。だから、この2つの分類は結構形式的なものなんだけれども、前に、このことでちょっと混乱したことがあったからさ。一応ね。

瀬上 : はい。それで、ドラクエの話なんですが。

米島 : そうそう。堀井さんね。あんま意識してるかどうかわかんないんだけどね。
 まず、ドラクエ5では、モンスターを仲間にするときに「スライムはおきあがって、こちらを見つめている。どうやら仲間にしてほしいようだ。仲間にしますか?」(はい/いいえ)となるので、ああ、見つめられてるんだ、というのがちょっとだけあるでしょ。で、それに対してはい、としたら仲間に加わるし、いいえ、としたら仲間にならないし、それはプレイヤーが好きなようにすればいい話だよね。別にゲームの中の世界に評価されたりするわけではない。レスポンスのシステムと言っていいのかな。
 それと7ね。「はなす」というコマンドが新しくできたことで、主人公の仲間達がガンガン主人公に語りかけてくるようになったでしょ。あれはもう、あきらかにプレイヤーに対して語りかけようとしているよね。これ、評価システムじゃなくて、レスポンスのシステムにしたのはよかったよね、プレイヤーが自由な行動を選択できるからさ。
 あと、ドラクエじゃないけれど堀井さんの脚本書いたクロノトリガー。あれははじめの方に主人公の行動に対する裁判というのがあって、それまでの主人公の行動が評価されて裁判で有罪になったり無罪になったりするわけね。つまり人んちの中に勝手に入り込んでいって勝手にたんすの中のものをあさったりしたら、しっかりと見られているぞ、ということだよね。もっともあれは性格には評価システムというべきなんだけれども、感じとしてはレスポンスのシステム、というか「見つめられている」という感覚がヴィヴィットにプレイヤーに伝わってくるものなんだよね。何よりも、プレイヤーの予期していない評価軸を突然つきつけられるわけだから、プレイヤーが意識していないところで他人の目みたいなものがあったんだな、という気にさせられるんだよね、すごく。その制御不可能な感じがすごく他人っぽい。
 他にも見つめ返されるシステムというのはあるけれども、独特のシステム、という点でいうとこのぐらいかな。
 
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2001-7-7
2002-1-8
2002-1-21

(C)Akito Inoue