Critique Of Games ―ビデオゲームをめぐる問いと思索―

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 ある業界における、企業間連携や、人材間の連携の動的構造は、しばしばエコシステム(生態系)として捉えられて説明がなされる。  本項では、ゲーム業界をとらえるとっかかりとして、主に『キーストーン戦略』あたりの話を解説してみることしよう。

A.企業間連携について(キーストーン戦略)

 マルコ・イアンシティと、ロイ・レビーンは企業間の連携における役割を、大きく三つに分類する。1.キーストーン種、2.ハブの領主、3.ニッチ・プレイヤーの三種類に分類する。

  • 1.キーストーン種
    • Microsoft Windowsなど。エコシステム全体を活性化させるような役割を果たす、ハブ的存在。
  • 2.ハブの領主/ハブの支配者
    • エンロンなど。エコシステム全体の中で、エコシステム全体にとってのハブとして機能するが、ハブとしての役割を利用して、他の企業から利益を簒奪するような戦略を採る企業。エコシステム全体を活性化させることができない。
  • 3.ニッチ・プレイヤー
    • 特にハブとしての役割を担わないような、個別の事業者。

 キーストーン種が、システム全体の一部しか担わないのに対して、支配者は「システムの大部分を占有し、自ら排除した種の機能を乗っ取ったり、他の種の機能そのものを除去してしまうという性質を持つ」という。  また、ハブの「支配者」はネットワークをコントロールすることに注力し、価値獲得と価値創出の双方に単独で責任を負う。ハブの「支配者」は、システム全体の価値を必ずしも下げるわけではない。ただし、エコシステムそのものが、半自動的/サステイナブルに駆動するような状況を作り出すことができない。一方で、ハブの「領主」は価値横奪のみに注力する存在となる。

 「キーストーン種」なのか「ハブの支配者」なのかという見極めは少し難しいが、ゲーム産業の例で言えば、

  • 1.任天堂や、ソニーといったハードメーカーは、基本的にはキーストーン戦略を採り、実際ある程度までキーストーン戦略が成功しているという側面が見受けられるというべきだろう。だが、2006年〜2007年にかけての日本のゲーム産業における売り上げ比率を見てみると、任天堂一社の占める割合が著しく計らずしも、「ハブの支配者」になりかけている、という状況がみてとれる。
  • 2.欧米における、ゲームエンジン・デベロッパーなどはキーストーン種としての位置を上手く成立させている、と言えるだろう。

B.人材間の連携について

 例えば、ウィル・ライトがシムズ・コミュニティなどのCGMサービスについて、エコシステムの比喩で語っている。

(→井上明人 2008,「CGMサービスにおけるユーザーの振るまい」『智場111号』参照)

C.進化ゲーム理論

 もう少し、まじめに主流の社会科学のなかでいえば、ジョン・メイナード=スミスなどによって提唱された、進化ゲーム理論の話がある。

 以上、ざっくりと書いたが、もう少しだけ細かい話は、  2009年に出版された、『「ヒットする」のゲームデザイン』(http://www.amazon.co.jp/dp/4873114187)の巻末付録で 「ゲーム市場の生態系とネットワーク構造の変化をどう捉えるか」 という短い文章を書いたので、興味があればご参照されたい。


関連:

  • マルコ・イアンシティ/ロイ・レビーン,2007,『キーストーン戦略』翔泳社
  • 井上明人,2008,「CGMサービスにおけるユーザーの振るまい」『智場111号』国際大学GLOCOM
  • 井上明人,2009,「ゲーム市場の生態系とネットワーク構造の変化をどう捉えるか」『「ヒットする」のゲームデザイン』(オライリー)所収

最終更新: 2012-12-19 (水) 22:36:04