[ ゲームのいくつかの目標 ]




米島 :  唐突だけど、ゲームを作る人間にとっての究極の目標、まあ、ゲームをやる人間にとっての究極の目標でもいいんだけれども、それって何だと思う?

瀬上 : え、ああ、はい。唐突ですねぇ。
 うーん。原則的なところからまず言わせてもらえば、まあそれは人それぞれだとは思うんですけれど

米島 :  そりゃそうかもしんないけれども、とりあえず今回は、まあ、それは無しね。

瀬上 : はいはい。ええとそれじゃあ、そうですねぇ

  …
 将棋とか野球とかみたいなスタンダードなゲームであり、それでもって多くの人間が一生を費やしてしまうようなゲームを作ることじゃないでしょうかね。
 ですから、テトリスとかあそこらへんは一つの究極系じゃないですかね。テトリスに一生を費やしてる人はそんなにいませんけれど。

米島 :  なるほど。それっていうのは、任天堂の人とかはけっこうそういう人は多いかもしれないね。あと、チュンソフトの中村(光一)さんとかも、そういう感じだよね。多分。

瀬上 : 実際に、任天堂は将棋版とか花札とか作ってますし、もともとはそういう会社ですからね。
 ああいう、スタンダードがすぐ隣で作られている、というのは、何か対抗心とかを呼び覚ますんじゃないですかね。

米島 :  そうかもね。うん。わかんないけど、そうかも。

瀬上 : 米島さんはどうなんですか?

米島 :  オレはね、モニターの中に人工の擬似世界を作り上げてしまうことじゃないかと、思ってるのよね。それで、そこで人工の生命を生活させるのね。
 で、プレイヤーはその人工の擬似世界の中に迷いこんで、その世界で暮らすわけ。

瀬上 : ほう。じゃあ、そういう観点からすると、『シェンムー』とか『シムシティ』とか、AM2研、ウィル・ライトの作品とかっていうのは、そういうタイプの人工の擬似世界の究極系を求めているものですかね。

米島 :  うん。そうだね。AM2研の作るゲームとかって基本的に現実世界のシミュレートというようなものがかなり多いしね。『F355』にせよ『バーチャファイター』にせよ。
 あと『シーマン』とか『ROOMANIA#203』とかもそうね。そこまでいかなくても、ゲームの中の世界をすごい丁寧に描こうとしている作品にはけっこうそういう感じをうけるよね。初期のFFとかは結構そうだったし、ドラクエなんかも一貫して世界をどういうふうに構築するか、ということにすごい神経はらってるし。女神転生とかも独特の世界を作ってるし、ラブデリックの作品なんかもすごいし。特に『L.O.L』はいかにもそんな感じの作品だったと思うよ。あと『たまごっち』とか『どこでもいっしょ』とかもそういうタイプだといえば、そういうタイプだねぇ。
 あ、あと、ちょっと違ってくるけど、ネットワークRPGっていうのは、もうネット上にもう一つの仮想空間をつくっちゃったよね。あの場合、新たな「場」の形成ということであって、世界そのものをバーチャルにもう一つ作ってしまう、ということとはまた違うけれど。

瀬上 : よくできたRPG、アドベンチャーの作品とかはそういうものを求めたような作品が多いというような感じがありますね。

米島 :  そうね。
 こういう、作品っていうのは、「現実逃避」だとか「現実と虚構の境目を」とかって批判も受けるかもしれないけれども、それでも作りたいものだと思うんだ。

瀬上 : それは何故?

米島 :  うーん。何でだろう。そうだなあ、理由を問われても難しいけれど、自分の手でもう一つの世界を作り出すとか、生命を作り出すとかっていうのはすごくワクワクしない?
 それに、現実を離れたもう一つの世界に住む、というのもとても憧れたりしない?

瀬上 : うん、まあ、確かにわかることはわかります。それができたら本当にすごいですよね。

米島 :  でしょ。

瀬上 : でも、それってゲームなんですか?
 僕が言った、ゲームの場合は、勝敗をきっする、つまり「ゲーム=試合」というような意味がメインですよね。だけれども、それだけだと、本当に住んでいるだけで、別に何かの評価軸があるってわけでもありませんし、物語があるわけでもありませんし、

米島 :  うーーん。もしかしたら確かにキミの言う通りゲームにはならないかもしれないね。何をしなければいけなってわけじゃないし。『シェンムー』なんかも、人工の世界を作ったはいいけれど、何をプレイヤーにしてもらおうかって、なってしまって、そこの部分であんまりうまくいってなかったしね。
 あれが、ドラクエとか、ラブデリック作品とか、ロマンシングサガとか、タクティクスオウガのようなシステムをうまいこと組み合わせてね、もっとこう、生活を積み重ねていくうちから、それが結果的に物語になる、とかいうのができたらすごいんだけどね。

瀬上 : それは、やっぱり高望みしすぎですよ。明らかに。

米島 :  いや、それはわかってるんだけれども、理想としてね。

瀬上 : はい。
 あと、そういうゲームの場合の、ゲームのルールっていうのも、勝敗を決するようなことのためのゲームのルールとは、またぜんぜん別物だということになりますよね。

米島 :  そうね、言わば、その世界の中で生活をするためのルール。生活の文法だよね。勝つとか負けるとか、そういう問題ではなくて、その世界の中に住んで、「さて、何をしようか」ということだよね。

瀬上 : それに、そういうものを作ると言うのは、単純にかかるエネルギーが本当に大変ですよね。

米島 :  まあ……シェンムー70億円だしね……。大変そうだよね、それは本当に。でもやっぱりこう、それだけのエネルギーをかけてでも、作りたい、作らなきゃ、というものだと思うんだよね、そういうのって。

瀬上 : そうなんですかね。

米島 :  だって、『パンツァードラグーン』の世界に住むために、あなたの人生を半分かけないか、って言ったらその提案にのる人は結構いると思わない?

瀬上 : 人生の半分までかけるかどうかはわかりませんけれど、確かにやってみたいとは思わせますね。

米島 :  あと、あなたの恋人を、あるいは友達をモニターの上に作り出すために、とかね。

瀬上 : インモラルだとか、言われそうですけれどね。
 その、擬似世界の話っていうのはでも、もう少し細かく言うとまたいろいろな部分がありますよね。

米島 :  というと?

瀬上 : 例えばですよ、まず、パラレルワードが欲しいというのがありますよねぇ

米島 :  うん。

瀬上 : そしてその世界に住みたい、と。
 それから、その人工知能と対話をしたい。
 あと、人工知能を育てたい。
 他に、その人工世界の中で空を飛ぶとかプロスキーヤーになるとかレーサーになるみたいな形で疑似体験をしたい、とか、色々ありますよね。

米島 :  そうだねぇ。まぁ、他にもなんていうんだろう、色々あると思うけど、何かこう、単に擬似世界でしかないはずのゲーム内世界のことで真剣に悩むとかね、プログラムが単にONとOFFの関係の単純なものではなくて、すごく複雑な愛着の集合体みたいなもんになったらプログラムの人工知能というのがすごく大切な存在に思えてくるだろうしね。
 あと、こう、シムアントみたく、レーサーになるとかっていうんじゃなくて、もうそもそも別の生き物として生きる楽しみを見出すとかね。

瀬上 : あと、そうですねぇ、『空手バカ一代』じゃないですけど、ゲーム内世界での強さを求めて修行にあけくれるとか、

米島 :  そうだねぇ、色々あるけれど、プロスキーヤーとか空手バカ一代もいいけれど、シムアントとかL.O.Lみたいに別の生命になっちゃうのがやっぱりいいなぁ。世界が全然違って見えるもの。あれはすごいよ。あれは絶対にすごい。他のメディアでやってたんじゃどうしたって追いつけないというすごさを感じるよ。だって、オレあれ、もう。蟻だもの。

瀬上 : 「蟻だもの」って言われても困るんですけど……

米島 :  だって言語化したいけど、それはもう言葉にできんのよ。
 ただ、もう、そのような別の存在の可能性、別の世界の可能性がありえたのだ、というただそのことを見せてもらうだけで。
 
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2001-7-8
2002-1-28

(C)Akito Inoue