この世界において、「魔王」は様々なものとして人々の心に現れている。ある人にとっては魔王とは立ち向かうべき強大な敵として現れ、ある人にとっては自らをただ恐怖におののかせて服従を強いてくる残酷な神として現れ、ある人にとってはすでに魔王によって全てを奪われ失ってしまったがゆえにただ悲しむべきものとして魔王という対象は現れている。
プレイヤーは、そのように多様に「魔王」という存在を受容する人々と接する中で、「魔王」という存在をただ残酷な存在としてではなく、多様に重層化された視点から見つめるに至る。立ち向かうべき魔王がおり悲しむべき魔王がおり恐怖すべき魔王がいる。どのような存在として魔王を見つめるか、ということはプレイヤーによって様々な受容がなされるが、一人のプレイヤーの中でもまた、そのような多様な魔王の表象のされ方と接したがためにただ単純に憎むべき存在としての魔王が立ち現れているいるわけではない。
だが、物語は終わりへと向かうにつれて、魔王と主人公との距離はどんどんと縮まり、やはり普通のRPGと同様に最後には直接に多様な語られ方をされた魔王というものの実体と対峙する。この時にプレイヤーの中にはどのような感覚でもって魔王との対峙がなされていたのか。魔王とはただ目の前にいるだけの敵ではないのだ。
©Akito Inoue 2002.1.26