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2004年08月07日(はてなダイアリーバックアップ用ミラー)
■夏目房之介『マンガと戦争』
以下はamazonに二週間前に投稿したレビューなのですけれど掲載してくれなかったようなのでこっちに載せときます。
誉めてはいないものの、それほど批判的な文章でもなかったので、ちょっと不思議。
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戦後マンガをいろいろととりあげて時代ごとの作品・作家レベルでの「戦争」イメージの変遷をたどる、ということが目的、とのことで、手塚から宮崎、庵野と幅広く、夏目さんなりの表現分析をベースとしたそれなり以上に鋭い分析者としての解説が加えられる。だが、全体的には、『マンガはなぜ面白いか』などと違い、それほど力をこめずに自由きままに書いているような印象があった。
だが、「力がこめずに」というのは、夏目さんのようなかたちで真剣にマンガの「批評」「分析」にとりくんでいるようなスタンスの人にとっては、むしろそれこそが、苦痛であり、妥協の産物なのかもしれないな、と思って読んでいたら、あとがきには、予想通りそういうことが書かれていた。
夏目さん自身が告白をしているとおり、マンガの緻密な表現分析をベースにして、批評を展開していく夏目さんの真骨頂ともいえる部分が本書では十分に発揮されているとは言いがたく、夏目さん自身が批判的であったはずの、作品を時代・社会的変化の単純な鏡のようにして扱うという反映論の立場を導入せざるをえなくなっている。
このような苦い選択を夏目さんがしなければならなかったと言うのは、本書のような「戦争イメージの変遷を追う」という目的をかかげた場合に、夏目流の表現分析だけでは、限界がある、ということを示しているのかもしれない。
だが、表現分析が多くの限界を含んでいるとしても、ここで夏目さんが採ったような反映論にゆかなくてもいいだろうという気はする。分析のための手段は他にもあるはずだ。
表現分析以外の多彩な分析手法をどれだけ獲得していけるのか―――それこそが、今後のマンガ研究をより豊饒にするための手立てではないだろうか。